VVVとピーナッツ

ブラッ ブラッ ブラッ ブラッ ブラッ

 

ボンネットで目玉焼きが焼けそうなぐらい暑い暑い、日曜日。大通りから一本入ったビルの裏に、小さな黄緑色の車が入ってきました。にぎやかな街の静かな駐車場は、あと一台で満車。真っ黒で平べったいスポーツカーの隣に、丸い枝豆のような車が並びました。

 

ピーナッツ:「ふうー。暑かったー。溶けちゃうかと思ったよ。日陰が空いててよかった、よかった。こんなところにこんないい駐車場があるなんて。都会ってビルの地下とか機械式が多いんだもん。やっぱり外の平置きは風通しよくて気持ちいいよね。でも、日陰じゃないとダメ。こんな日に日向にいたら熱中症になっちゃう。僕はやっぱり外の日陰、それも木陰っていうのがいちばん好きかな。んー、でも、葉っぱとか虫があんまり多いと困るしなあ。」

V V V:「ん、んー(咳払い)」

ピーナッツ:「あ、ごめんなさい。起こしちゃいましたか?」

V V V:「あのさあ……おまえ、風呂入ってる?」

ピーナッツ:「え?」

V V V:「足、泥だらけだけど?」

ピーナッツ:「ええ? そんなにひどいですか? いつもこんな感じなんですけど……」

V V V:「いつもこんな感じって、なに、どこから来たわけ?」

ピーナッツ:「山です。昨日は、朝ちょっと畑に行って、それから急におでかけしようってことになって、夏休みだからテンちゃんの好きな恐竜展に来たんです。」

V V V:「いやいや、こっち来るんだったらさあ、ちゃんと足洗ってから来いよ。『畑から直で来ました』って、そんなんじゃホテルとか入れないだろ。なんか顔も埃っぽいし。風呂入れてもらえよ。」

ピーナッツ:「え! そんなしょっちゅうお風呂に入ったほうがいいんですか?」

V V V:「しょっちゅうっていうか、俺だって週四ぐらいだけどさ。」

ピーナッツ:「週に四回も! すごいなあ。僕なんて年に四回ぐらいです。」

V V V:「まじかよ! 年に四回ってなんだよ。衣替えじゃないんだからさあ。オーナーだって毎日風呂入ってんだろ。おまえもきれいにしてもらえよ。」

ピーナッツ:「オーナーってなんですか?」

V V V:「なんですかって、おまえ、オーナー乗せないで誰乗せて走ってんの。」

ピーナッツ:「ああ、テンちゃんのお母さんのことかー。テンちゃんのお母さんは女の人だから、ちゃんとレディースデイにお風呂に連れてってくれるんですよ。レディースデイはお得なんです。」

V V V:「あちゃー。それさあ、機械洗車だろ。」

ピーナッツ:「機械じゃない洗車ってあるんですか?」

V V V:「手洗いだろ、普通。細かい汚れが落ちないし、傷がついたらどうすんだよ。おまえんとこ、大丈夫か? ちゃんとかわいがってもらってんのか?」

ピーナッツ:「かわいがってもらってます。テンちゃんも、テンちゃんのお母さんもお父さんも、おはよう、おやすみ、ありがとう、また明日ねって、みんな僕のことを毎日なでなでしてくれます。それに……畑に行くとすぐまた泥だらけになるから、汚れてても大丈夫ですよ。汚れるとか傷つくとか気にしてたら走りにくいし……」

V V V:「はあー(ため息)。まあ、そうだな。そうなんだろ、きっと。本人がかわいがってもらってるって言ってるんだから、それでいいじゃないか。俺は畑の中なんて走ったことないしな。そういうことなんだ。うん。」

ピーナッツ:「やだなあ。そんな落ち込まないでくださいよ。あなただって……えーと、何さんでしたっけ?」

V V V:「VVVだよ。見りゃわかるだろ。だいたい落ち込んでないし!」

ピーナッツ:「ブイブイブイさんっていうんですか? 変わった名前ですね。」

V V V:「伝説のスーパースポーツカー、VVV。この三つのVが……もしかして知らない?」

ピーナッツ:「ごめんなさい。で、VVVの、何さんですか?」

V V V:「何さんて、だから、俺はVVVだよ。」

ピーナッツ:「そうじゃなくて、名前。VVVって車種ですよね?」

V V V:「車種っていうか、そう呼ばれてるけど?」

ピーナッツ:「そうなんですか……。VVVさん、かわいがってもらってますか?」

V V V:「当たり前だろ。オーナーは俺に乗るときいつもすげえうれしそうだよ。そういうおまえは、名前あるのか?」

ピーナッツ:「僕は、ピーナッツくんって呼ばれてます。」

V V V:「ピーナッツ? なんでピーナッツなんだよ。色もかたちも違うだろ。」

ピーナッツ:「なんでピーナッツなのかは、僕もよくわからないんですけど。でも、僕はピーナッツくんです。気に入ってます。」

V V V:「……そうか。じゃ、まあ、よかったな。」

ピーナッツ:「そうだ。ブイブイブイさんじゃなくて、僕が名前をつけてあげますよ。えーと、えーと、んー……クロちゃん!」

V V V:「ない、ない、ない。伝説のスーパースポーツカーでクロちゃんはない。」

ピーナッツ:「そうかなあ。いい名前ですよ。真っ黒だから、クロちゃん。とっても似合ってます。僕、最初にここに入ってきたとき、もっとこわい車なのかなあと思ってたけど、結構やさしくて、僕のこといろいろ心配してくれて……」

V V V:「あ、オーナーだ。じゃあ、俺、行くわ。ピーナッツ、元気でな。俺、いつもこのへん走ってるから、また会うかもな。」

ピーナッツ:「もう行っちゃうんですか。さっき会ったばっかりなのに。僕、なかなか来られないかもしれないけど、みつけたら大きな声でクロちゃーんって呼びますね。クロちゃんも僕のことみつけたら、ピーナッツくーんって呼んでくださいね。」

 

ボルウ ボルボルウ ボルルン ボボボボ

 

真っ黒で平べったいスポーツカーは、大きな音をたててあっという間に行ってしまいました。丸い枝豆のような車の隣が一台空いて、にぎやかな街の静かな駐車場にビル風がすーっと吹き抜けました。