入れ歯をはずした紫色のおじいちゃんとしゃべった。
爺「なんじゃ、膨らまんかったのう」
私「……」
爺「これでは、バザーにはよう行かんのう」
私「なんでやろ……ちゃんとしたのに」
爺「あ、これこれ、またそうやって、すまほで調べよるやろ。するする、するする、調べよる」
私「原因がわかったほうがええやんか。口はふがふがしてるし、顔色も悪いし、なによりぺっしゃんこやん」
爺「おまえは、ほんまに、なんもわかっとらんのう。答えなんか、なんぼ探してもおんなじやぞ」
私「ちっちゃいのに、やかましいおじいちゃんやな」
爺「探し回らんと、まずは、じいっと自分をみつめてみい。おまえはレシピを読んだんか?」
私「読んだし。『しっかりよく混ぜる』って書いてあったんですーっ」
爺「あほ。混ぜすぎじゃ」
私「むう」
爺「ええか。よう聞きや。レシピっちゅうんはな、行間を読むもんや」
私「行間とかそういうの、私わからへんから。台詞が少ない映画もわからんし、社交辞令もわからんし、冗談もわからんもん」
爺「言葉をな、言葉どおりにしかとらんから、そうなるんや。ほれ、食べてみ」
私「これ……団子やわ。蒸しパンじゃない」
爺「米粉やからな。味はどうや?」
私「味はおいしいけど、たくさんは食べられへん」
爺「そうやろ。食感が悪いと、よう食べんやろ。人間もおんなじやぞ。なんぼええこと言うててもな、感じ悪かったら、相手は飲み込まれへん」
私「確かに。おじいちゃんもさっきから感じ悪いもんな」
爺「これ。また、そないなことを言う」
私「はいはい。ご指導ありがとうございますう」
爺「何回か作って練習すれば、おまえもわかるようになる」
私「はいはい。それはそうと、おじいちゃん、だんだんかたくなってきてるわ。そろそろ子どもの口に入ってくれる?」
爺「さよか。ほな、そうさしてもらうわ。ちょっと団子みたいに丸めてんか」
私「また作るから、今度はふわふわの蒸しパンになって出てきてね」