天狗の湯 壱

どうどん どう かんか どどん

 

緑色と紺色とねずみ色と、山と山と山とが、重なって三つの色に見えるぐらい山の多い村があった。緑色の山のふもとに湖があって、村人が住んでいた。紺色の山の中腹に城があって、殿様が住んでいた。ねずみ色の山の頂に洞穴があって、天狗が住んでいた。

さて、紺色の山での話。城では殿様が床に臥せっている。家来が次々に食べものを運んでくるが、どれも殿様の気に食わない。時が止まるかと思うほどの蒸し暑さにやられて、殿様は何も食べたくない。動きたくない。殿様は緑色の山におふれを出すことにした。

殿様が食べたくなるようなものを持って行けば、ほうびが出るらしい。緑色の山のふもと、湖を囲むように住んでいる村人たちの口から口へ、おふれの話はすぐに広まった。村人たちは、湖で釣った魚、川で釣った魚、猪の肉、山の食べもの、畑の食べもの、煮たもの、焼いたもの、漬けたもの、思いつくかぎりの食べものを殿様のもとへ届けたが、殿様は一口も食べなかった。

殿様はねずみ色の山にもおふれを出すことにした。ねずみ色の山は険しく、頂の洞穴に天狗が住んでいるほかには、人間の家が一軒あるだけ。家来たちは誰も行きたがらなかった。そこで殿様は家来にもほうびを出すことにして、若い家来がひとり遣わされた。

家来がねずみ色の山に着くと、蝉時雨にまじって鉦のような太鼓のような音が聞こえる。家来は音の聞こえるほうへ聞こえるほうへと道なき道を登り、着物が絞れるほどの汗をかいて、一軒の家の前に出た。

家には年老いた父親とその息子が住んでいた。家来は一杯の茶を求めたが、年老いた父親は断り、殿様がここまで来られたら食べものを出そうと言う。家来は腹を立て、父親を斬りつけようとしたが息子に止められた。息子は大変な力持ちだった。家来があわてて逃げようとすると、息子は家来の腕をつかみ、竹の筒に入った水を持たせた。そして、帰り道を教えた。

息子に教えられたとおりに山をくだってみると、あっけないほど早く城に着いた。あの親子は天狗の遣いに違いない。家来はそう思ったが、殿様には黙っていた。二度とあの山には登りたくない。ほうびを受け取ると、家来はその日のうちにどこかへ逃げてしまった。

殿様はたくさんの家来をねずみ色の山へ遣わし、息子が水を汲みに出かけた隙をついて父親をとらえ、城まで連れ帰ってこさせた。しかし、父親は殿様のために食べものを用意するよう命じても何もしない。私の家まで来られたら食べものを出すと言ったのだ、と繰り返すばかり。殿様は腹を立てて父親を牢屋に入れた。

それから幾日もたたぬうちに、緑色の山のふもと、湖を囲むように住んでいる村人たちの口から口へ、天狗の遣いの親子がいるらしいという話が広まった。

 

今日は山の日。続きはまた明日。