ショロポン スコンチョ ササテンテン
えー、昔からよく「夫婦げんかは犬も食わない」と申しますが、みなさんよーうご存知のとおり、夫婦というのはしょうもないことでけんかするものでございます。ええ、先ほどもそこで「なんであめちゃんないねん。ちゃんと買うとけて言うたやろうが」ておこってはるお父さんがいてましたけども、まあ、おくさんはおくさんで「文句言うんやったら自分で買うてきたらええやろ!」てやり返してましたなあ。大げんかの原因は小さなあめちゃんと、みなさんよーうご存知のとおり、よくあるパターンでございます。
おにのようにおそろしい顔をして言い合ってるのを見ますと、こちらもはらはらしてしまうもんですが、どんなけんかも時間が経てばいつの間にやら仲直り。しれーっとしとります。せやから夫婦げんかに口出したってしゃあない、なんでも食べてしまいよる犬でさえ知らん顔しとるでと、昔の人はようわかってはりますな。夫婦のことは夫婦にしかわからない。しかも世の中にはいろんな夫婦がいてる、とまあ、そういうことなんでしょうな。いろんな夫婦とひとくちに言いましても、実は人間だけやないようで……
トケテン
「あー。つかれた。ちょっと休けい、ちょっと休けい。もう今日はあかんわ。つかれたわー。」
「つかれたつかれたて、あほみたいに何度も言わんでもええわ。こっちかてつかれてるんやから、だまっとれ。お茶。」
「なんやの、その言い方。あんたがひとりで先々行ってしまうからやないの。あんな勝手なペースで。私、あせだくでついていってたんやで。愛するにょうぼうにおつかれさまぐらい言うてほしいわ。」
「あほらし。そんなもん、いちいち言うてられるか。おれが右足で、おまえが左足。ふたりでひとつやろ。夫婦で仕事しとるんやから当たり前やないか。だいたい、利き足やからいうておれのほうがようけ働いとるんや。そっちこそ気きかしてお茶のひとつでもさっと出さんかい。」
「まあ、えらそうに。なんぼ利き足や言うたかて、私がおらんかったらなんにもでけへんくせに。おたがいさまやないの。はあー、なんでこんな足とけっこんしてしまったんやろ。『心配せんでええ。おれが働くから、おまえは家のことをたのむ。』て、びしーっと男らしゅう言われてみたいわ。」
「足なんやから、しゃあないやろ。ふたりで働かな……」
「そんなん、わかってるわ! 言うてみたってええやろ。」
「ほんならおれかて言わしてもらうけどな、おまえのほうも文句ばっかりたれとらんと、たまには『はい』て素直に言うとおりにしてみい。おれがびしーっと言うてみたところで、どうせ文句言いよるやろ。」
「はい、はい、わかりました。万が一にもな、あんたが男らしゅう言うてくれることがあったらな、そのときはそうさしてもらいます。」
「絶対やな。絶対『はい』て言えよ。そのとおりにせえよ。」
「約束したるわ。はあー。一日でええから、ひとりでひとつになってみたい。そしたら、どこでも好きなとこ行って、ひとりでゆっくりできるのに……」
と、妻がなげいておりますと、また仕事の時間になりましたようで、ふたりは連れ立って出かけてゆきました。
ホッチ ノン ホッチ ノン ホッチ ノン ホッチ ノ!
「ひゃあ」と妻がさけぶやいなや、夫もいっしょにぼってーんと派手に転びまして、ふたりは道の上で真横になったまま動けんようになってしまったから、さあ大変。
「どないしたんや。だいじょうぶか?」
「痛い、痛い、痛いー。じんじんするわー。」
「どんくさいな。なんであんな、なんもないとこでこけたんや。」
「なんもないことないわ。ちょっと段差があったんや。んー、痛い。」
「立たれへんのか?」
「ひとりでは立たれへん。ねんざしてしもたんちゃうかな。ものすごい痛いわ。」
「ええ! ねんざやったらどないすんねん。えらいことなったー。」
「どないしよう……。」
「どないしようて、おれがけんけんせなしゃあないやろ。」
「そんな、あんたひとりで無理やわ。」
「ほな、どないすんねん。どうしようもないやろ。」
「もうちょっとここでこうして休んでたらだいじょうぶやわ。」
「無理せんでええ。おれがけんけんして病院まで行くから、おまえはおとなしいしとき。」
と、夫がびしーっと男らしゅう言いますと、妻は蚊の鳴くような声で「はい」と言うたきり、しゅーんとして一言もしゃべりません。ふたりはだまったまま病院へ着きました。
「先生、ちょっと見てもらえますか。さっき道で派手にこけまして、こいつが立たれへんて言うんですわ。」
「どれ。んー、ほんまに立てまへんか? おかしいなあ。全然はれてへんけどなあ。」
「いえ、先生、私、だいじょうぶなんです。でも、この人が『無理せんでええ。おれがけんけんして病院まで行くから、おまえはおとなしいしとき』言うてくれたんで、素直にそうしてましてん。おかげでゆっくりできましたわ。」
「なんや、おまえ、立たれへんて言うたやないか。」
「ひとりでは立たれへん、て言うたんです。私ら、ふたりでひとつ。夫婦で仕事してんねやから当たり前やないの。」
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