おかあさん

その日

私は「新生児」と呼ばれるわが子を抱いて

立ったまま揺れ続けていた

子守唄を歌い続けていた

 

何時間も前に止まった洗濯機の中では

黄色いしみのついた赤ちゃんの肌着や、授乳ブラや

悪露を受け止めたパンツや、タオルや、ガーゼや

くたくたの布が絡まり合ったまま固まっている

 

おむつも替えたし、おっぱいもあげたし、抱っこもしてる

泣き止まないどころか、泣き声はどんどん大きくなる

 

どうしてそんなに泣くの?

わたしが泣きたいよ

 

「もうお手上げだー」

わざと明るくつぶやいてみても

すべて泣き声にかき消される

 

赤ちゃんと私

ふたりきり

 

夫は夜まで帰ってこない

母は遠く離れた実家にいる

 

赤ちゃんと私

ふたりきり

 

うわーん うえーん おいおい おいおい

私の歌声は、泣き声に変わった

いい大人のはずなのに

泣き止まないどころか、泣き声はどんどん大きくなる

そのとき

 

「おかあさーん」

 

窓の外で、小さな女の子が母親を呼んだ

自分が呼ばれたかと思った

私は泣き止んだ

 

そうだ

今は泣いてばかりいる赤ちゃんでも

あと何年かすれば、いっちょまえの子どもになって

私のことを「おかあさん」と呼んでくれる日がくる

とりあえず、その日までがんばろう

がんばろう

 

今日

赤ちゃんだったわが子は私を「かあさん」と呼ぶ

きれいな貝殻とか、自分の描いた絵だとか

いろいろなものを私にプレゼントしてくれる

 

あの日の女の子はどうしているだろう?

あと何年かしたら赤ちゃんを産んで

私のように泣くだろうか

 

そのとき私は彼女の心の中に入って

「おかあさーん」と呼んであげたい